色無地と江戸小紋は、少し離れて見るとどちらも「無地の着物」に見えます。江戸小紋は型染めで細かい柄をつけているため、遠目にはほとんど柄が分からず、色無地と見間違えても不思議はありません。
ただ、これは遠くから見たときの話です。近づいて生地を見れば、裏表の柄の入り方や柄の種類から、この二つは明確に見分けがつきます。そして、見分け方とは別に、色無地にも江戸小紋にもそれぞれ「格」を決める基準があり、TPO(着用する場面)に関わってきます。この記事では、まず見分け方を、続いてそれぞれの格の決まり方を整理していきます。
見分けるときに見ている場所は「裏表」と「柄の名前」
まず、この二つを見分けるときに実際に見ている場所をお伝えします。
江戸小紋は型紙を使って柄を染めているため、裏返してみると表側にしか柄が入っていません。色無地は生地を一色で染めたもので、柄そのものを染めで加えているわけではないため、裏表で柄の入り方に差は出ません。なお、色無地の生地には、地紋(織り込まれた模様)があるものとないもの(縮緬など)の両方があります。
また、江戸小紋の柄に似た模様を、織りで表現した先染めの着物もありますが、それは「江戸小紋」ではなく「江戸小紋柄の織物」という別物です。染めで柄が入っているか、織りで柄が入っているかも、合わせて確認しておきたいポイントです。
もう一つの手がかりは柄そのものです。江戸小紋には鮫・行儀・角通しをはじめ、古くから伝わるいくつもの伝統的な柄があります。こうした柄が入っていれば、少なくとも「色無地ではない」ことは分かります。ただし、それが型染めの江戸小紋なのか、同じ柄を織りで表現した江戸小紋柄の織物なのかは、柄の名前だけでは判断できません。裏表を見て表側だけに柄が入っているか、生地が染めなのか織りなのかを確かめる必要があります。ネット通販などで手に取れない場合は注意が必要で、商品名に「鮫小紋」などと書かれていても、実際には織物やプリントであることもあります。商品説明に「型染め」と明記されているかを確認したり、不明な点はお店に問い合わせたりすると、こうした誤認を避けやすくなります。
色無地の格を決めるもの——紋の数
色無地の格は、主に入れる紋の数で変わります。一般的には紋の数が多いほど格が上がり、五つ紋>三つ紋>一つ紋>無紋という順になります。
紋を入れない色無地は、気軽なお出かけに着られる装いで、小紋と同じような感覚で楽しめます。背中に一つ紋を入れると準礼装として扱われ、式典やお茶席のように、きちんとした装いが求められる場にも着ていけるようになります。
ただし、この紋の数の考え方はあくまで一般的な目安です。実際にいくつ紋を入れるかは、ご家庭やご本人の考え方、着ていきたい場面によって変わってきます。目安として押さえつつ、最終的には自分が着たい場面に合わせて考えてよい部分です。
江戸小紋の格を決めるもの——柄の種類と紋の有無
江戸小紋の格は、柄の種類と紋の有無の組み合わせで決まります。鮫・行儀・角通しの三つは「江戸小紋三役」、そこに縞(万筋)・大小あられを加えた五つは「江戸小紋五役」と呼ばれ、数ある江戸小紋の柄の中でも格が高いとされています。
この三役・五役の柄であれば、紋を加えることで略礼装として扱われるようになります。ただ、後の章で触れるように、実際に江戸小紋へ紋を入れる方はごく少数です。色無地が主に紋の数で格が変わるのに対し、江戸小紋は柄の種類と紋の有無の両方が関わってくる点が異なります。
現場で受ける相談——紋は入れた方がいいのか
色無地や江戸小紋を仕立てるとき、「紋はいくつ入れたらいいですか」という相談を受けることがあります。
ここで一つ、現場の実感をお伝えしておきたいことがあります。実際に紋を入れたいとはっきり希望される方は、今はかなり少なくなっているという実感があります。長年この仕事をしてきた中でも、江戸小紋に紋を入れたいと明確にご希望された方は数える程度です。
紋を入れたいという明確な意思がなく、「どうしたらいいでしょうか」と相談される段階のお客様には、紋なしをおすすめすることが多いです。理由は、紋を入れない方が、着ていける場面の幅が広がるためです。
紋なしの色無地・江戸小紋は、普段のお出かけに気軽に着られる一方、紋を入れると改まった場に対応できる準礼装・略礼装(江戸小紋は三役・五役の柄の場合)になります。紋なしであれば、合わせる帯を変えることで着られる場面を広げやすい、という点も、紋なしを勧める理由のひとつです。帯による調整の幅については、次の章で詳しく触れます。
もちろんこれはあくまで現場で見てきた実感であり、紋を入れることが時代に合わないという話ではありません。家によっては紋を大切にする考え方もあります。結論を急がず、まずは自分がどんな場面で着たいかから考えてみるとよいと思います。
TPOを読み違えないために——帯次第で変えられる
では、色無地や江戸小紋を着るとき、TPOはどこまで厳密に考える必要があるのでしょうか。
一般的な利用であれば、色無地も江戸小紋も、合わせる帯次第でTPOの幅を変えることができます。たとえば名古屋帯を合わせれば普段使いに近い装いになり、袋帯を合わせれば少し格を上げた装いになります。帯の仕立てによる格の違いは、以前の記事でも詳しく取り上げていますので、気になる方はあわせて読んでみてください。
茶道などの習い事で「この紋の数・この柄でないといけない」という指定がある場合は、その指定を優先してください。ですが、そうした指定がない一般的な場面であれば、紋の数や柄の種類をそこまで厳密に気にしすぎる必要はありません。帯や小物の組み合わせで調整できる範囲は、思っているより広いものです。
まとめ:見分け方は裏表と柄、格を決めるのは紋の数と柄の種類
色無地と江戸小紋は、遠目には同じ無地のように見えても、近くで見れば明確に見分けがつきます。そして、見分け方とは別に、それぞれに格を決める基準があります。
①裏表を見る・柄が染めか織りかを確認する・伝統的な柄(鮫・行儀・角通しなど)が入っているかを見れば、色無地か江戸小紋かを見分ける手がかりになる
②色無地の格は主に紋の数(五つ紋>三つ紋>一つ紋>無紋)で変わるが、あくまで目安であり、実際にいくつ入れるかはご家庭やご本人の考え方次第でよい
③江戸小紋の格は柄の種類(三役・五役)と紋の有無の組み合わせで変わる
④紋を入れたいと明確に希望される方は現場の実感としては少なく、着る場面の幅を広げたい場合は紋なしも選択肢になる
⑤習い事などで指定がない限り、色無地も江戸小紋も帯次第でTPOの幅を変えられるので、気にしすぎなくてよい
見分け方と格の決まり方、どちらも知ってしまえばそれほど難しいものではありません。まずは今回お伝えした見分け方を手がかりに、気負わず選んでみてください。
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著者: 絹路(Kinuji) / 呉服の現場に15年以上




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